今やトキのごとき。しばるも、昔むかしのそのまた昔、御先祖様がこの列島で初めて住まいを作ったとき、しばるこそが先端技術だった。石の斧で栗の丸太を切ってきて、地面に掘った穴に立てて柱とし、次にその上に水平に差し渡して梁とし、さてこのふたつの材をどうつなぎ留めればいいのか。つなぎ留めないとズレて落ちてしまう。今の建設現場の主任なら、ボルトで締めるだろう。これが一番簡単で強い。少し前の主任なら、大工さんに言って柱の頭にホゾ(凸状の突起)を切り、梁の方にはホゾ穴をあけて、ギッと差し込む。
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ついでに言うと未来の建設現場では接着剤で留めておしまいになるかもしれない。では、ボルトもノミもノコギリも接着剤もないころの御先祖様はどうすればいいのか。磨製石器でホソとホゾ穴を作ることはできるが、それだけではすぐ抜けてしまう。幸いしばる技術があった。身近な技術としてしばることが広く行われていた。たとえば。獲物をとるための弓矢。矢の先端には黒曜石の矢尻が樹皮でしばって固定され、後ろには矢羽が同じくしばられ、その矢をつがえる弦は、弓の両端にしばり付けられている。そして、獲れたイノシシは脚をしぼり、棒を通して二人でかついで家へと急ぐ。しばる技術の発達を可能にしたのはナワの存在で、一本一本は弱くて短い草や樹皮でも、ナワになわれると引っぱり強度は飛躍的に増大するし、長さも必要なだけ伸びる。これはもう原始人にとってはほとんど魔法のようなもの。物と物をつなぎ留めるほとんど唯一の技術であった。ナワでしばるは、原始社会にあっては魔法的先端技術として敬意をもって扱われていたに相違ないし、こうした敬意があればこそ、土器の表面に転写されて縄文土器が生まれ、あるいは聖なる場を画すための注連縄として張られたのだろう。